2006年度 滝めぐり観察会 「安房地方の見えのよい滝」 現地資料 


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バスの中で話した、滝のかたち:概要
バスの中で話したことの資料です。 見ていただければ分かると思います。
画像がないとツマラナイでしょうから、インターネット版には画像で見るクイズをつけました。 
滝の定義
「滝」とは、「河川にできた河床の段」をいいます。
 段が何m以上なら滝だというきまりはありませんが、ここでは、1〜2mぐらいより大きいものを対象にすることにします。・・・・「目の高さ」より高いもの。
 なお、現実の滝の記載で、□□滝という場合の滝の単位はどうしたらいいでしょうか?
 上記の滝の定義は、地学的に見た1つ1つの個別の滝の定義です。以後、これを使います。
しかし、地学的な滝の定義と、景観から見た□□滝の対象とは、必ずしも、一致しません。
 滝が1つしかなければ同じですが、複数の滝が近接している場合(これを「連瀑」ということにします)、この連瀑をさして、□□滝ということが一般的です。 たとえば、西沢渓谷の七つ釜五段の滝 みたいに。これを、地学的に言えば、5つの滝があるということになりますが、それでは、むやみと滝の数が多くなってしまいますね。滝は地学の対象であるよりは、景観としてみられていますから、滝のリストなどを作製するにあたっては、個々の滝が近接して連続している連瀑の場合は、連瀑をを単位として、記載するのがよいでしょう。滝の記載の単位としては、「大きな連瀑の場合は、連瀑を単位とする」ということですね。この方法は、人間の視野程度の大きさが、景観の地形単位であることから出てくる便宜的なもので、地形学的には
は大きすぎるだけのことですので。

滝の定義補足
●滝と滝でないもの
「滝」・・・・水があり、高さもあり、自然の川の段。
「滝タラズ」・・・水がない、丈が足りない段。
「水痩せ滝」・・・「枯れ滝」・・・「濡れ滝」・・・「垂れ水滝」
 季節による・・・「季節滝」⇒これは「滝」に入れるかどうか・・・入れる方向
「丈無し滝」丈がない・・・1.6m(目線高)以下・・・「小滝」
「滝モドキ」・・・自然の滝でないもの。・・・観光地にたくさんあるので気をつけよう。

「滝」にいれる「滝モドキ」
 「人工滝」・・・水も人工、崖も人工の滝・・・・歴史上意味のある滝には人工滝が多い(例。音羽の滝、紅葉山の滝など)。なお、用水は人工の水と考える。
「改造滝」・・・水が自然、崖が人工・・・・例。川廻し滝
     ・・・信仰用に作成、改造した滝に多い。・・・東京等々力不動の滝など。
●滝の単位
洪水時(ある程度の)、水流が一体に落下するのを、1つの滝の単位とする。
1つの滝で滝面に段のあるもの・・・階瀑。 複数の滝で、近接しているもの・・連瀑。
複数の小滝が連続するもの・・・多段小滝




<滝面の縦横比による区分>
檀瀑(だんばく)
滝面の縦と横の長さ比 0.5以下  ・・・名づけの理由 お寺の基壇をイメージ。
滝の画像(外野の滝1)と、イメージの絵の画像
簾瀑(れんばく)
滝面の縦と横の長さ比 0.5〜1.0  ・・・名づけの理由 海の家の竹すだれをイメージ。
幕瀑(まくばく)
滝面の縦と横の長さ比 1.0〜2.0 ・・・名づけの理由 江戸時代のお店の店前の幕をイメージ。
滝の画像(外野の女滝)と、
幟瀑(しょくばく)
滝面の縦と横の長さ比 2.0〜5.0  ・・・名づけの理由 神社のお祭りの幟をイメージ。
帯瀑(たいばく)
滝面の縦と横の長さ比 5.0〜10.0 ・・・名づけの理由 帯を広げると・・・のイメージ。
条瀑(じょうばく)
滝面の縦と横の長さ比 10.0以上 ・・・名づけの理由 縄のれんの一すじ縄をイメージ・・・条虫(サナダムシ)ではない。



<滝の景観分類>
高さ 滝面形状型 滝面形態
の修飾語
メインの分類 注記
■m 檀瀑
簾瀑
幕瀑
幟瀑
帯瀑
条瀑
     (壁状、円弧状)
馬蹄形
溝状
片溝
両溝
不定形状
+ 人工瀑
湧水瀑
連瀑
階瀑
懸崖瀑
直下瀑
急斜瀑
緩斜瀑
壇瀑
その他
+( 季節滝
川廻し滝
加工滝
合流滝
など

例 片溝直下滝(加工滝) のように記述する。

例 山口滝 18m条瀑 壁状直下瀑
  坊滝  片溝急斜瀑 など
永瀬氏の滝区分 ・・・・科学性のある分類とは言いがたい。
直瀑
分岐瀑
潜流瀑
段瀑
渓流瀑
海岸瀑

<滝の三形:成因・変遷・現在の変化>
 段ができると、その段は削られて、上流側に変化します。
図3 滝の移動
滝の成因: 大陸氷床が溶けた跡に川ができたが、もともとの地形の段があり、
地点5で滝ができた。滝の変遷: 地点5→2まで、11.2Km峡谷を掘り込みなが
ら後退し、現在の滝になっている。
 図3に、金子(1972)による、ナイアガラ滝の移動を示します。約12、000年前にできた段が途中2つに別れたり、また、一緒になったりしながら11.2Km移動しています。年平均0.92m移動したことになります。
図3 滝の移動
滝の成因: 大陸氷床が溶けた跡に川ができたが、もともとの地形の段があり、
地点5で滝ができた。滝の変遷: 地点5→2まで、11.2Km峡谷を掘り込みなが
ら後退し、現在の滝になっている。

 一般に、段は川に沿って後退していきます。同時に、川に沿う縦断面上で見ると、後退するにつれて1段のままでなく、段が分裂して何段かに分かれることもあります。
 このように、今みている滝の姿は最初の滝が変化した姿です。
 つまり、滝の現在の姿は、(過去に段ができた時の段の様子)+(段ができてからの変化の様子)の2つの要因により決まります。
 最初の、段のできた理由を「滝の成因」ということにし、段の変化してきた姿を「滝の変遷」ということにします。
 結論的に言うと、
(1) 滝の高さや立地は、滝の成因に対応することが多く、
(2) 滝や滝群の分布や滝付近の峡谷などの地形には滝の変遷が、
(3) 現在の滝の形状には、その地点での河川の侵食の形態とそれに抵抗する岩石の岩質、構造とが対応しているといえます。
<滝の変遷に対応する形 遷急区間とその形>
視点を変えて、滝や瀑布帯をより広く川全体の中でみてみましょう。
 地図上で川の河床に沿って、河床高度と距離をグラフにすると(これを業界の用語で「河床縦断面」といいます。)、一般に下に凸の滑らかな曲線になります。
 このことは、川というものは、
  @河床に段があると削ってなくしてしまう。
  A河床の縦断方向の傾き(業界用語で「河床勾配」といいます)が上流ほど急になるように河床を削っていく、ということになります。
 この滑らかな曲線は、指数曲線でほぼ近似できるとされ、業界用語で「平衡曲線」と呼んでいます。
 川は、常に、平衡曲線になろうとし、なったら外部条件が変化しないかぎり、それを維持するように働いているわけです。
 つまり、縦断面上に段があるとそれを削って行って上流に後退させ、平滑な縦断面を作ろうとしています。
 この法則は、河口から水源まで全流路についてなりたちます。多くの川の下流部分のように、自分で運んできた砂礫や泥でできている河床の場所でも成り立つし、上流のように、河床が岩でできていて、それを削り込んでいる所でも成り立っています。

 さて、房総の川は、河床の岩が特に弱い方の代表で基本的に川の言いなりですので、大部分の川は平衡になっているはずと思われるかもしれませんが、房総丘陵を流れる、大きな川である養老川、小櫃川、小糸川、夷隅川などでも、本流に遷急点(滝)があり、対応して支流にも遷急点が見られます。
 それら本流の遷急点のうち、一番有名なのが養老川の遷急点で、遷急点は高滝(観光用に粟又滝、養老の滝などともいいます)という30m程の落差の滝1つでできています。

 図7に、断面を示しますが、養老川の河口から高滝の上流までを示しています。現在の川に遷急点が1つあり、高滝となっているのがわかります。

 過去の河床の縦断面は、段丘面として残っているわけで、養老川では、KuT(久留里T面)からKuX(久留里X面)まで5つの段丘面が完新世の河岸段丘として残っています。
現在の河床は、KuX(久留里X面)の時代から下刻していることになり、高滝よりも上流の河床はKuX(久留里X面)の時代の河床が残っていることになります。

●滝が1つだけなら、遷急点=滝 ですが、分裂して複数の滝になることが多く、「遷急区間」と呼びます。

 つまり、滝は1つだけあることもありますが、大きな滝の上流下流には近くに小さな滝があることもよくあります。これらの滝群は一続きの廊下や峡谷をなしています。それで、

 瀑布帯の滝は、多

多くのくの場合1〜2個の大きな滝があり、この滝を本滝(2つ以上ある場合は下流から本滝1、2)とし、本滝の上流にある小さな滝を上滝、下流の小滝を下滝とし、本滝から近い順に123とします


この滝の群を「瀑布帯」と呼ぶことにします。
<遷急区間の形:平面形と断面形>
<滝の成因(今日見る滝の分) >
 4-5 硬岩型の滝(軟岩型の滝) 

 房総では、本流型の滝、懸谷型の滝、支流型の滝などの段の位置は、特に硬い地層に当たっているわけでなく、岩質(硬岩層)の直接の影響でない場合がほとんどです。 勿論、砂層より泥層の所に滝ができているとか、砂泥互層の滝なら泥層が造瀑層風に出張っているとかの岩質の影響は、当然あります。しかし、滝が泥岩層の所にあっても、滝の下流の泥岩層と比べて滝のところの泥岩が特に固いということは普通ありません。 時々、滝があればそこには必ず硬い岩石があるはずと信じている方がいるのですが、そうでないことの方が多いようです。
 しかし、川が下刻していくとき、河床に硬い岩石が露出していて段の後退が一時的に遅くなるか止まると、その地点で硬い岩質の部分の下流側が掘り出されて、段[滝]ができる場合は当然あります。
 今まで述べてきた、滝のうち、段(滝)の位置が、河床の硬岩の存在に対応しているものを、特に硬岩型の滝と呼ぶことにします。下刻侵食があるから滝が出来るので、硬い岩のところでもそのうち削れて平滑な縦断面になってしまうので、一時的に滝が硬い岩のところで止まっている、ぐずぐずしていると考えるわけです。
 他の理由でぐずぐずしている為できている滝もたくさんあるよという考えですね。滝の成因が硬岩によるだけなら、地形として滝の成因を調べるのなどたいして興味の持てることではないでしょう。
幸いなことに、硬岩だけで説明できる滝以外の滝が結構あるわけです。 
 特に、房総半島の川では、河床の岩石が削り込みに対して弱く、かつ、ほぼ一様の岩石なので、、段の原因が硬い岩石のせいだと言い切れる滝はほとんどありません。
  4-1-1 本流型の滝 

 段の成因が地域共通である(広域的な隆起運動や気候変化による水量増加など)場合、局地的な原因によらず下刻と遷急点の形成が行われます。たとえば、房総丘陵の川は、いずれも下刻を行っています。 房総半島南部は、世界有数の隆起地帯で土地はどんどん隆起していますが、それに対して、川も負けずに河床を削り込み、谷を掘り込んでいます。
 ところが、川は河床を一様に削るのではなく、下流側の方を先に削り込むため、上流側のまだ削られていない河床との境に、段[滝]ができます。 この段は段々上流側へと移動していき、充分時間が立てば最上流まで達して段はなくなってしまいます。 房総の川では、まだ充分に削り込む時間がなく、これらの段が川の中途にまだ残っています。
 そして、この段がどこにあるかで、滝の様子が違います。
 本流型の滝は、段が、川の本流や大きな支流の中途にある状態の滝とします。縦断面で見ると、段(滝)の上流には、下刻以前の河床が残っていることになります。勿論、段は1つの滝のこともあれば、分裂して瀑布帯になっていることもあります。本流ですから、幅広で、水量が大きな立派な滝がみられます。
 養老川上流養老渓谷の高滝(粟又滝・養老の滝ともいう)は滝が1つの場合の代表R例です
 →図7参照。
 同じく、図8の例(平久里川支流増間川の瀑布帯)は、段が瀑布帯になっている例です。
 増間川本流沿いの河床断面と周辺鳥瞰図を図9に示します。


   図9 本流型の滝  

本流の坊滝等の4つの滝で構成される遷急点より下流は急な峡谷をなす。
支流にも対応する遷急点があり、2つの滝(前惣引滝、後惣引滝)がある。
遷急点より上流はより緩やかな谷となる。
by Yosimura Mitutosi 
  
<滝の現在の形>:< 水の作る滝の微地形>
<滝の動き方>
 滝の年代からみると、現在の滝は形成がすごく新しいものが多いのですが、
発生地点からの後退量はかなりのものです。しかし、20年間滝を見ているのですが
現在の滝で動いている滝は無いと思っています。なんか矛盾してますね。
 詳しくは、略しますが、房総の川廻しの滝などでは、300年間で350mぐらい後退している滝もありますが、大きく動いた滝でも、いつも動いているかというと、毎年350÷300=1。1mづつうごいているなら、現在でも10年たてば10mは動くわけですから、動きの観測ができるわけですが、最近50年間は全然動いていません。
 少なくとも房総では、滝が動いていると観測・観察できた滝はなく、最近20年間動いていないと写真で証明できる滝のほうが多いですね。
 どうも、滝の動きは一様ではないらしいということになるんですね。さらに、私は、今ある滝は大体が、動きがすごく遅くなっている時期のものではないかと思っています。
 
 では、滝はどのように動くのでしょうか。滝が後退すること、遷急点がそれによって後退することは確かですが、では、それがどのように後退するのかは実はよく分かっていません。
 しかし、少なくとも、滝が断面の上で常に相似形を保ったまま上流に移動するということはないとはいえます。
 現在の単一の滝がそのまま平行移動して後退するより、上の部分が分裂して瀑布帯の形になり、分裂しながら移動するほうが、起こりえそうだし、確かのようです。
 一方、単一型の滝もたくさんあり、その滝が最初に作られた位置から移動していることが確かでもあります。
 つまり、滝は分裂したり、一緒になったりしながら移動しているのではなかろうか。滝は集合離散を繰り返しながら後退しているのではという考えがでてきます。
 この後退速度の不連続性と、形態の集合離散性をふまえて、現在の滝の分布(このことについても工事中につき、続巻にて解説したいと思います)を考えると、「滝は早く動くときは分裂していて、遅くなると一緒に集まる」と考えられます。
 房総の滝を例にして、滝がどのような地形の所にあるかから、河道の平面形と滝の位置を関係付けて作った、滝の後退のモデルを示しておきます。


不連続に上流に向かって動きます。
曲流部で遅く、滝が集まり、直線部で早く、分裂します。


現地アルバム 石井良三氏撮影・提供

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