原 正利氏作成 観察会現地説明資料  070625 アップ。WP掲載に伴い、体裁を変更しました。 工事人:滝おやじ   霧ヶ峰観察会記録目次へ

 原氏のご了解を得て、資料の観察にかかわる部分を掲載します。 文中に引用されている図については、縮小画像と引用元を示しましたので、もとの文献を参照してください。

2007年度 第1回自然観察会

     
霧ヶ峰高原・八島ヶ原湿原
 − 爽やかな初夏の高原で自然とともに、草原、湿原、森林の観察 −
                     
講師
  原 正利  千葉県立中央博物館環境科学研究科
     岩瀬 徹  千葉県立中央博物館 友の会

千葉県立中央博物館 友の会
担当 横林庸介・泉 宏子

友の会事務所
  〒260−8682
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 八島ヶ原湿原
初夏を迎える八島ヶ原湿原 撮影 原 正利
 
霧ヶ峰の自然−特に植物について−

原 正利
自然環境の特徴
 霧ヶ峰は諏訪盆地の北東に広がる高原状の台地で、海抜1,600m前後に平坦面が広く発達し、最高峰は車山(1,925m)です。 平坦面は第四紀初期に噴出した霧ヶ峰火山の溶岩流によって形成された斜面で、その上に御岳火山の火山灰をかぶっています。

 気温は、夏季の最高気温が20℃台前半、冬季の最低気温はマイナス10℃以下となります。
 年降水量は、中腹の蓼の海(1,250m)の記録で1,700mmほど、さほど多いとは言えませんが、快晴日数が少なく霧日数が多いのが特徴で、平均して年間200日以上、霧が発生します。冷涼湿潤な気候と平坦な地形によっていくつもの湿原が発達しています。

 植生帯区分の基準とされる吉良の暖かさの指数を八島ヶ原湿原(1,632m)について計算すると約50℃・月となり、冷温帯と寒帯の境界とされる45℃・月に近く、霧ヶ峰地域が冷温帯の落葉広葉樹林帯の上限付近に位置することがわかります。
 また、日本海気候区と太平洋気候区の中間の内陸的な気候下にあるため、植物地理的に日本海側に分布する植物と太平洋側に分布する植物の両者が見られることや、冷温帯を代表する森林であるブナ林が発達せず、かわりにウラジロモミ林が発達するなどの特徴があります。
湿 原
 霧ヶ峰には3つの高層湿原、すなわち八島ヶ原湿原、車山湿原、踊場湿原が分布します。これらの湿原は我が国の高層湿原のうち、最南限に位置するものです。
 最大の八島ヶ原湿原は43.16haの広さがあり、東西2つのド−ムが発達する典型的な高層湿原で、ド−ムの中央部分は周辺に比べて約7m盛り上がり、泥炭の厚さは8m以上に達しています。
 世界的にも有数の、良好に保存された高層湿原であるとされています。
 泥炭層最下部の炭素14年代測定値は12,000年B.P.を示し、この湿原が晩氷期からゆっくりと成長してきたことを示しています。
 ド−ム上にはイボミズゴケ、ムラサキミズゴケ、チャミズゴケが優占し、ヌマガヤ、トマリスゲ、ツルコケモモ、ヒメシャクナゲ等を伴っています。植物の種数は300種以上が確認されています。
 車山湿原は、車山と蝶々深山(ちょうちょみやま)の鞍部から下流にかけて発達し、面積は約8.3ha、泥炭の厚さは0.5〜1.5mほどで、3湿原中最も幼齢と考えられています。隣接部分を含めて250種以上の植物が確認されています。
 踊場湿原は池のくるみとも呼ばれ、面積は7.9ha、緩やかな傾斜を持つ谷に発達しています。泥炭層の厚さは約2.5mで、池から低層湿原、さらに高層湿原へと湿原が遷移していく様子を見ることができます。植物の種数は220種以上が確認されています。
    
       初夏を迎える八島ヶ原湿原
 撮影 原 正利

図[・21八島ガ原湿原植生図
 図出典:諏訪の自然誌・植物編編集委員会(1981)


八島ヶ原湿原における花粉分析結果.<BR>
 Kanai&iwata(1968)及びHori(1938)<BR>
    図出典:鈴木兵二(1981)<BR>

        


 Fig.23 小隆起(hummock)と小凹地(hollow)の交代による地形の隆起
(矢野.1977)       C:トマリスゲ

 Fig.24 トマリスゲの小株の分岐による小降起,小凹地の形成
(矢野.1977)   図出典:鈴木兵二(1981)

草 原
 現在の霧ヶ峰の景観を特徴付けている草原は、高山のお花畑とは異なり、人為による採草や火入れの結果、成立した草原(半自然草原)です。

 いつ頃から草原化していたか正確なことは不明ですが、平安時代の終わり頃には、諏訪神社に奉納するための狩猟神事である御射山祭(みさやまさい)が行われた記録があり、−部はすでに草原化していたと考えられます。

 特に近世以降は、地元の人々が採草のための入会山として利用し、広大な草原が維持されてきました。

 霧ヶ峰の草原は阿蘇や秋吉台などの草原と並び、我が国の半自然草原を代表するものです。

 しかし、昭和30年代以降、従来の草原利用の変化や縮小に伴って、樹林化が進行し、草原の面積は減少してきています。
 
 草原の植生や植物相を残すため、昔のような採草や火入れが必要と無くなった現在でも、これらの作業を行って保護への努力が続けられています。

 霧ヶ峰の草原には、1,280種以上の植物が見られます。 ニッコウキスゲヤマツムシソウなど上記のような人為的管理に適応した草本植物が数多く生育しています。
 斜面に広がるススキ草原には、スズランヤレンゲツツジ、コウリンカなど多様な種が出現し、湿原周辺などやや湿生で有機質の多い立地には、オニゼンマイやヤマドリセンマイの優占する草原が見られます。

40年間,火入れを継続してきた
ススキ草原の種組成.

     表出典:川上美保子(2006)
森 林
観音沢のウラジロモミ林
観音沢のウラジロモミ林
 
 霧ヶ峰は気候的には森林帯に入りますが、人為的影響によって草原化している場所が 多く、森林も大部分はミズナラやシラカンパ、アカマツなどの二次林です。

 しかし、車 山などの斜面の沢沿いの岩礫地は、採草や火入れの影響を受けにくかったことから、自然性の高い森林の断片が残され、“樹叢”と呼ばれています。

 “樹叢”内の森林は、ダケカンバやミズナラ、コミネカエデ、ミネザクラなどが優占し、下層にも亜高山性の植物 が多く見られます。オオヤマレンゲのような分布上、珍しい植物も生育していいます。

 また、八島ヶ原湿原の南側を流れる観音沢上流部の東俣国有林には、“樹叢”とは異なる原生的な自然林が残されています。

 沢筋に発達するこの森林では、ウラジロモミ、 ダケカンバが樹高20m以上に達して優占し、低木層にはオオイタヤメイゲツ、アサノハカエデ、ノリウツギ、オオカメノキ、クマイザサなどが多く見られます。

 温帯林の代表的な樹種であるブナやイヌブナを欠くことが、この森林の大きな特徴です。
 参考文献:

諏訪の自然誌・植物編編集委員会.1981・諏訪の自然誌植物編.692pp・諏訪市教育委員会.
鈴木兵二(監修).1981.霧が峰の植物.246pp.+112pp.+付図・付表・諏訪市教育委員会.

 
下見の記録 霧ヶ峰高原・八島ヶ原の植物 
2007・6・17〔日〕晴れ、18〔月〕曇り、 原講師、横林、山田〔友の会々員〕   当日の観察の参考にしてください

 △−蕾  ○−花〔開花〕   ◎−果実〔種子〕
6・17〔日〕晴れ

○ 忘れ路の丘〔グライダ−滑走路〕
     なだらかな丘です、お天気が良ければ富士山が素晴らしいその姿を見せてくれます。

 キンポウゲ〔ウマノアシガタ〕− 〇 ミツバツチグリ− ○  ニガイチゴ− 〇  レンゲツツジ− △○    ニツコウキスゲ− △ 
 アマドコロ− △  セイヨウタンポポ− 〇   トキワハゼ− 〇      ミミナグサ− ○

○ 奥霧ヶ峰 八島ヶ原湿原〔標高1630m.鎌ヶ池側〕
     9日に歩くコ−スです、当日はこの逆をたどります、蝶々深山(みやま)(1839m)へ30分ほどの登りがあります。
     周りを観察しながらゆっくり行きましょう。

レンゲツツジ− △○    ヤマツツジ− ○     ミツバツチグリ− ○  ニガイチゴ− 〇      タカトウダイ− 〇    ニワトコ− △○
イヌコリヤナギ− 〇   アマドコロ− 〇稜がある   マユミ− △  キンポウゲ− 〇     ズミ− 〇         オドリコソウ− 〇
ヤマドリゼンマイ−○   ワタスゲ− 〇      タテヤマリンドウ− 〇  アサヒスミレ− 〇     イヌエンジュ− 芽吹き
 ☆ この時期、鎌ヶ池のへりに、固有種である「キリガミネアサヒラン」が咲くそうです、  トキソウも−緒に咲くそうです、サワランの変種でピンク色の小さな花です、池のふちを注意深く観察しましょう。
シロスミレ− ○      オオヤマフスマ− 〇

14:25 キャンプ小屋 ここのトイレは使えません
  ツルウメモドキ− △    サルマメ− 〇

14:40 トイレあり
ニリンソウ− 〇      カンボク− 〇      ユモトマムシグサ− ○  コバイケイソウ− △○   チゴユリ− 〇  (ヒロハテンナンショウ)

15:15 物見台       ニガナ − △
15:40 蝶々深山 標高1836m
16:00 車山湿原    スズラン− △○     ザゼンソウ
17:10 車山肩 17:20発  17:30ヒュッテ霧ヶ峰


 6月18〔月〕曇り


○ 御射山〜観音沢
 9:00出発 諏訪大社御柱の巨木を育む「御柱の森」、沢沿いに豊かな森林が続きます。

 アマドコロ− 〇  ミツバツチグリ− ○   レンゲツツジ− △○  キンポウゲ(ウマノアシガタ)− 〇  イトマキイタヤ   タカトウダイ− 〇
 シロスミレ− ○      ニリンソウ− 〇       オドリコソウ− 〇  オニゼンマイ− 〇    エンレイソウ− 〇     ヒロハテンナンショウ
 コハウチハカエデ 葉柄が長い  ハウチワカエデ 葉柄短い  アサノハカエデ       ツボスミレ− ○  コヨウラクツツジ
 クサコアカソ        バイカウツギ    ネコノメソウの仲間   ニワトコ − 〇        オククルマムグラ  タニタデ
 アカショウマ− △○    ラショウモンカズラ−・〇 ツリフネソウ− 〇   チドリノキ    ツノハシバミ       カツラ
 アオダモ(コバノトネリコ) ハシリドコロ− ○    ノブキ    トチノキ− ○        ヤマブキ− 〇       モミジガサ
 ミヤマガマズミ− △○   サワシバ          ウワバミソウ− △   オオイタヤメイゲツ      イワセントウソウ     クリンユキフデ− ○
 ミヤマタニソバ      ワダソウ     ヤマクワガタ


  屏風岩 11:15
 クルマバツクバネソウ− 〇   スミレサイシン      チゴユリ− 〇  マイヅルソウ− △     クリンソウ− 〇     ムラサキケマン− 〇


〇 蹄り場湿原
 ツノハシバミ          アマドコロ ○   オニゼンマイ− 〇   レンゲツツジ− 〇     スズラン− △○   ウマノアシガタ− ○
 バツコヤナギ・.◎     二ガイチゴ− 〇       サルマメ− 〇   アヤメ− △○    ハシバミ− 実はヘ−ゼルナッツ 
 キンギンボク− ○   チゴユリ− 〇       マイヅルソウ− 〇     オトコヨウゾメ− 〇   ミネカエデ− 軸が赤い 
 カンボク   イヌガンソク   クサボケ− 〇   カワラマツパ   オオニガナ− △   オノエヤナギ   エンレイソウ− 〇
 ナツトウダイ− 〇   ナナカマド− △       ミヤマウグイスカグラ 

以上

日 程
             7月 8日(日)
 6:40 集合JR千葉駅・NTT東日本ビル前
 7:00 出発
  湾岸千葉IC・東関東自動車道−首都高速−中央自動車道・諏訪IC−     R20−県道40号線
12:00頃 霧ヶ峰自然保護センタ−到着の予定
12:00〜12:40 昼食・休憩  〔売店−ジヤガバタ− 400円 旨そうでした〕 12:40〜13:00 八島湿原駐車場へ移動
13:00 観察開始
  八島湿原ビジタ−・センタ−あざみ館−御射山ビジタ−センタ−観音沢                 
  湿原・森林の観察

16:00 バスに戻って、今夜の宿泊所「ヒュッテ霧ヶ峰」へ移動
18:00〜 夕食 1F食堂
20:00〜22:00
    原先生、岩瀬先生によるお話
    懇親会 自由参加      
 7月 9日(月)

 6:00 早朝の鳥の観察 自由参加
 7:00 朝食lF食堂 
 8‥00 出発 時間厳守・雨具、j岬(各自準備)
 8:00−8:30 車山肩へ移動
 8:30 観察開始
     車山湿原− 蝶々深山− 物見岩− 奥霧小屋

      湿原・高原〔草原〕の観察

 12:00〜12:40 昼食 八島湿原周辺
 12:40〜15:00 八島湿原(昨日とは反対側)
 15:00 観察終了 八島湿原出発  千葉へ
注意事項 その1
 ・両日ともきつい登りや下りはありません、ゆっくり観察を楽しんでください。
 ・コ−スタイム等は予定です、天候やその他状況により行動時間の変更をす   ることもあります、その際にはご協力をお願いします。
 ・体調の変化は早めに、団体行動から外れるときは必ず担当者に申し出てく   ださい。
注意事項 その2
・ 弁当と怪我は自分もちです、事故のないように気をつけましょう。
・ フィールドで出たゴミはきちんと持ち帰りしましよう。
・ もちろん・動植物の採集は禁止です。
・ 先頭担当者と後尾担当者の間を歩いてください。
・観音沢は岩が湿っていて滑りやすいので十分注意をしてください。

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