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 千足沢の滝(天狗滝、綾滝)の見どころ    
 画像は石井良三氏撮影
1。地形と地質
千足沢は北秋川の支流で、 本流との出合いは、282mぐらい。
流域の最高は、大岳山から南東に延びる馬頭刈尾根の標高1054m峰。

千足沢は、比高750mほどの急な支流で、北秋川の他の支流と同様に、急なV字谷を作り、3段の遷急点を作って下刻しています。これは、本流の侵食に対応して支流の侵食が進むということから、他の支流とも共通した地形であると考えられます。 

千足沢の流域(図の赤線で囲まれた部分)では、所々に、露岩や岩峰がみられます。流域の北側稜線にツヅラ岩という露岩の岩峰、岩壁があります。また、流域西側の976m峰から高黒岩という露岩の尾根があり、天狗滝がかかっています。
 V字谷を作っていく侵食に、抵抗して岩壁や岩峰が作られていくわけですので、流域内に岩質の不均質があることになります。流域の地質は、主に、海沢層(砂岩およびチャート)からなっていて、砂岩層とチャートとが図のように交互に現れます。
 地質図は、東京都(2003)。地形図は、国土地理院2.5万五日市より作成。
 チャートは緻密で固く、侵食に強く。砂岩層は、割れ目がたくさん入っていて砕けやすく、侵食に弱い。
 砂岩層の部分には、より平滑な、露岩の少ない斜面、あるいは、遷急点間の平滑な河床断面区間が見られる。
 チャート層の部分には、ツヅラ岩、高黒岩などの露岩の岩壁や岩峰、あるいは、天狗滝などの千足沢の遷急点などの地形が見られるなど、流域内では、チャートと砂岩の岩質差による地形の違いがあるのが、千足沢流域内の地形の特徴といえます。
 なお、秩父系の氷川層(頁岩)は、千足の集落(本流の河岸段丘および千足沢の土石流扇状地面上にある)部分にありますが、砂岩同様に侵食に弱い岩質のようです。

 千足沢の地形は、1。遷急点等の、他の支流の流域とも共通する地形。 2。チャートと砂岩の岩質差に起因する、流域内の地形差 という2種の地形が合成されているということになります。
●2。千足沢の縦断面
 川の地形を調べる時のお約束ですので、千足沢の縦断面を作ってみました。
 オオッ。かっこいい断面ですね。
 千足沢には、3つの遷急点があって、
第1遷急点が、綾滝。

第2遷急点は、比高、80mもあり、天狗滝とその下の無名滝はその上部をなしていることが判明。第2遷急点の下部には、別の瀑布帯があることが、下見で判明しました。

第3遷急点は、最新の本流の段丘形成に伴う下刻に対応した遷急点。
 これについて、情報が無かったが、下見に行ったら瀑布帯がありました。

 この3つの遷急点は、いずれも、チャート層に川が差しかかる所から上流側に形成されていました。 遷急点の後退がチャートでとどめられているためと考えられます。 
第2遷急点の遠望

千足沢の下流、払沢の滝入り口の駐車場から遠望。

正面が千足沢の谷で、谷の中央に岸壁(高黒岩
という)があり、天狗滝の水流が見える。

 滝の頂上から、下のV字谷底までが、第2遷急
点(区間)の部分というわけですね。

、谷左手から、中央の岸壁、右手の高まりへと、
チャート層が谷を横切る部分が、岩尾根や第2遷
急点になっていることがわかる。
 第1遷急点について

 天狗滝の上流で、千足沢の河道が砂岩とチャートの境を流れるようになっています。
 この部分は、硬いチャートを避けて、隣接する砂岩層を掘って下刻し、流路決定をしていると解釈されます。

 この部分では、川の右岸側がチャート、左岸側が砂岩となっていて、露岩、岩壁の多いチャート斜面と、大きな崖錐や平滑な斜面ができている砂岩斜面の対比が見られます。

この部分の上流で、 河道が両岸チャートになってしまっているので、チャートを掘らざるをえず、侵食が停滞して、第1遷急点(綾滝) ができています。
3。瀑布帯の形、遷急点・連瀑帯。地名としての滝・連瀑
従来の文献やインターネットの情報では、第2、第3遷急点について、やはりというか、不十分な記述であることがわかりました。
下見の結果、気づいたことをまとめます。
1。第3遷急点 
   本流の段丘の下刻と対応する遷急点で、千足の集落の上流のチャート部分にあるようです。
   存在は確認しましたけど、谷に下りるのはしんどそうだったので、観測等はせず。(-_-;) 

2。第2遷急点
 比高約80mの大きな遷急点です。
 遷急点(区間)のなかは、2つの連瀑帯があり、下流の「下の連瀑帯」と、最上流の「無名の滝〜天狗滝連瀑帯」があります。・・・もしかすると土石流で埋まった連瀑帯がその中間にもう一つあるかもしれません。

 下の連瀑帯 上の2m滝
 2-1 下の連瀑帯
 見たところ、比高9m(下から2m、2m、3m、1.5m)の4つの小滝の連瀑帯です。登山道からもみえますが、今までの記載が遷急点という考えがないので、一切無視されていたものです。また、土石流の巨礫が被さっていて、半分埋められていますので、無視されているのはそのせいでもあると思います。
 この上の河床は、登山道から見えなくなるのですが、水音がしますので、もしかすると土石流で埋まった連瀑帯が、無名の滝までの間に、もう一つあるかもしれません。

 2-2 無名の滝〜天狗滝連瀑帯
 従来の文献では、天狗の滝は、小沢さんの本のように、高さ38mという数字が一般的です。
ところが、地元の「桧原村史」には「天狗滝約20m」とあり、「その下流には立派で目立つのに無名の5〜10mの滝がある」と書かれています。2説あるというわけ。
 まず、38mといえば、同じ桧原村の三頭山の大滝よりも高い滝ということになりますが、写真で見るかぎりそんなに高そうにも思えません。
 天狗滝 講師撮影
 また、すごい立派で、下の街道からも見える下流の滝が、無名なのもどうも腑に落ちません。
 というわけで、どれかが間違っているのではという気がしていたのですが、行ってみて、こんな考えになりました。
 まず、行ってみて分かったことですけど、いわゆる無名の滝と天狗滝の2つの滝が別々にあるのでなく、連続する5つの滝があり、区間40mたらずの瀑布帯をなしているんだということがわかりました。
5つの滝は、瀑布帯の一般用語でいうと、下から、
 下滝2(8m):無名の滝といわれているもの。
 下滝1(5m):この滝は無名の滝のすぐ上に連続してあります。立派な滝です。
 本滝(19.5m):村史で、天狗の滝といわれているもの。
 上滝1(4.5m):天狗滝の下からわずかにみえます。滝上に道でまわると確認できる。
 上滝2(1m)
の順に並んでいます。
滝の高さは、本滝(天狗の滝)は、ブラントンコンパスを使って測量で、残りの滝は5mの箱尺で測定しました。

 <上は事実ですが、ここからは考察>
瀑布帯全体の比高は、合計すると、8+5+19.5+4.5+1=38mで、ぴったり、従来の数値と一致します。
また、天狗の滝の名前が、最近の観光滝名でなく、古くからの滝の名前ということから考えると、この比高38mの瀑布帯(5つの滝の連瀑)が、本来の「天狗の滝」だと思います。
 そもそも、古来からの滝の呼び方として、連瀑の瀑布帯のばあいでも、「■■の滝」と呼ばれる・・・例えば、袋田の滝、龍頭滝など・・・例は普通のことです。
その意味での「天狗の滝」であったと考えるほうが合理的です。
 現在は、現地の道の案内板にも、桧原村史にも、連暴瀑布帯の内の本滝(19.5m)を「天狗の滝」といってしまっていますが、このように天狗の滝という地名の対象が、連瀑帯から一つの滝(本滝)のみに限定されてしまった理由としては、連瀑であることが、登山道のためにわかりにくくなったためではと思います。
 道がいわゆる無名の滝から巻道になり、いわゆる天狗の滝まで、瀑布帯が全く見えない状態になるので、連続した瀑布帯であることが一見わからなくなり、下滝1も天狗滝だということが失われてしまって、「名前がない滝」になってしまったのではと思われます。

 <じゃあ、どうするんだ。→命名する権利は無いので地元にあわせるだけですね>
 従来の経緯はどうであれ、地名は生き物ですから、本来そうであったにしろ、本滝のみを天狗の滝、残りは「無名」としている案内板の表記が地元での認識なのでしょう。
 元の姿から変わってしまったそちらに合わせるしかないでしょう。
 とすると、天狗滝の高さは38mから、19.5mに変更して、さらに、上記の連瀑瀑布帯の本滝とでも補足するといった所でしょうか。
4。滝面の形
滝面の形、記載については、「滝を観る」HPの記述方法で記載してみましょう。
天狗滝の連瀑帯 下滝2
 いわゆる「無名の滝」
 落差 8m
 線滝 円弧状急傾斜。
 チャート
 埋没滝壷
滝下には土石流の巨礫が留めており、滝下の水たまりは「滝壷モドキ」。
現滝面は滝面に平行した急傾斜した順層方向の割れ目に沿って、滝面が剥離している。

滝面の左側に、巨木の生えた旧滝面の溝跡があり、滝の落ち口が下刻しつつ、平面的に移動したことがわかる。
天狗滝の連瀑帯 下滝1 
 落差 5m
 線滝円弧状急傾斜 ナメ状
 チャート
 全面滝壷

 上からのぞきこみなので滝面と岩石との関係はよくわからない。

 滝面の灰色と白色の縞模様は、層状チャートの葉理

 天狗滝の連瀑帯 本滝   落差 19.5m  流域面積 0.83平方キロ

 線滝 円弧状急傾斜
 チャート 滝壷モドキ(埋没した全面滝壷の可能性もある)

 現滝面は、滝面に平行した急傾斜した順層方向の割れ目・断層面に沿い、
 滝面が剥離されて形成されている。

 
 この上に、上滝1、上滝2、がある。 


 <天狗滝の滝面沿いの割れ目 と高黒岩の岩壁>
 左の画像は、滝面に沿う割れ目。左手に岩尾根になっている。
 上の岩壁は、高黒岩。

 右の画像は、高黒岩。

 チャートが谷斜面特に、その下部で、凸出して、岩壁を作ることが多い。・・・近くでは、神戸岩など。斜面上部、特に侵食前線より上になると、その関係は明瞭でなくなるのが普通。

 ただ、この岩壁は、神戸岩のようにチャートと他の岩石との境という簡単な関係でなく、チャート層の中の大きな割れ目に沿って下流側が侵食され・崩落して形成されているよう。チャートだから全部硬いというわけではないよということでしょうね。

この画像は、講師撮影。 

 天狗滝の連瀑帯 上滝 1  落差 4.5m
 
 線滝溝状急傾斜 全面滝壷

 
 
 天狗滝の連瀑帯 上滝 2  落差 1m弱
 
 線滝 緩傾斜

 小さいけど、滝が分裂して上流に向かって後退していく尖兵ということで重要。
  綾滝 
 落差21mという。この滝の高さは未測定だが、21mはなく、2/3 ぐらいしかないので、
 上滝があるはずですが、それは、未調査。
 
 線滝円弧状急傾斜 埋まった全面滝壷。 チャート 流域面積 0.30平方キロ

 砂岩とチャートの境界部より、上流側に10mぐらい滝壷を削り込んで後退している。
滝崖の部分に以前の滝壷の円磨された壁があることから、以前は深い滝壷がありその上面は4−5m以上上にある2段の滝だったが、下段が破壊されて現在の形になったと判断される。

 この滝壷の右側のチャートの急な露岩の崖に、以前は滝面であったと思われる円弧状の溝があり、この滝も、「無名の滝」のように位置が水平移動しているらしい。
  綾滝 
 <綾滝の旧滝面?>
 滝壷の右側のチャートの急な露岩の崖に、以前は滝面であったと思われる円弧状の溝があり、この滝も、「無名の滝」のように位置が水平移動しているらしい。

画像説明
左の白く見えるのが、綾滝の滝面。
正面の小崖から右上にかけて、露岩の急な斜面になり、手前は緩やかな斜面になっているが、露岩斜面がチャートの部分。緩やかな斜面は、チャートと砂岩の境界線に沿って入っている沢の堆積物斜面。
正面の杉の木が倒れている溝が旧滝面?
この画像は、講師撮影
5。斜面地形  
 ルート沿いに見られる山地斜面の地形と堆積物

千足沢の侵食前線

 天狗滝の滝下から撮影。





この画像は講師撮影
土石流の巨大礫 (左の画像)
千足部落のはずれの千足沢河床。第3遷急点の上流で、河床が浅くなる。河原には、土石流による巨大礫が見られる。
 本流の土石流扇状地・堆積物が、天狗滝上の第2遷急点の上流の、緩やかな谷の部分に発達。・・残念、画像撮りませんでした。

支流の土石流扇状地 (右の画像)

林道が扇状地面を切断していて、断面が見えている。
人物右手の切り欠きが、水路末端。普段は伏流。

大きな崖錐斜面 
(左の画像)千足の集落地のはずれ。
第3遷急点を過ぎて、谷がやや広がり、崖錐が発達。
 耕地と新しい集落が立地。

(右の画像)
砂岩の斜面下部の崖錐

綾滝の手前。第2遷急点上流の斜面。川の左岸側の砂岩の斜面は、傾斜がゆるく、大きな崖錐が発達している。右岸側のチャートの斜面が急で、凸凹の露岩・岩壁どっさり斜面になっているのと好対照。 

 谷斜面末端の小崖錐
 
 新鮮な崖錐地形。
人物の前の小扇状地状の微小地形。扇頂部の上に小さな崩壊地がある。
植わっている杉より古いということになる。

 山の斜面 といして、十把一絡げにせず、このようなせこい地形を区分して、微地形分類しながら斜面をみていくのが基本。


チャートの斜面と砂岩の斜面

綾滝の手前。チャートと砂岩の境界線を下刻の際に河道選択していったので、右岸がチャート、左岸が砂岩の斜面になっている。
(左の画像)綾滝の脇。左手が滝のあるチャートの斜面。
傾きと形が、右手の砂岩の斜面とまるで違う。
(右の画像)、同じ場所。砂岩側の平滑な斜面とその下のよく発達している崖錐斜面上部。
右の画像は講師撮影
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