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 滝を見に行く、事前調査 ・・・天狗滝を例に    
 一般に、滝を地学的に見に行く前にやっとくといい事を書いてみました。
1。滝の本やインターネットで・・・・所在情報
天狗滝連瀑帯にて、測量
石井良三氏撮影
 滝は、自然物としてはまだ発見の時代で、滝の一覧などすら公刊されていません。つまり、愛好者に聞くより無い、という状態です。さらに、沢登り屋さんしか知らない滝もあるので、それも大変ですね。
 ですので、滝の所在を探すなら、図書館に行くより、インターネットで探したほうがとっかかりが早いですね。

  滝のデータベース: オトマッキー氏のHP に、全国の名称ある滝のデータベースがある。
  滝の本の一覧  : 澤枕氏のHP に、滝の本のデータベースがあります。
 
 所在情報を知るには、この2つから、どうでしょう。

  滝のだいたいの位置がわかれば、全国をカバーしている、2.5万地形図で位置を確認します。
  2.5万地形図は、最近、国土地理院のHPの「2.5万地形図を見る」のページでカラーを試験公開しています。
  これは手軽で良い。

 天狗滝を例にすると、2.5万地形図五日市図幅に位置が記入されている滝ですので、位置の確認はいいでしょう。
まずは、東京都の滝なので、小澤洋三(1993) 『東京の滝』、という本があります。高さ38mとのこと。
有名な滝なんで、他にも紹介している本は多い。私の持っている数少ない滝の本、竹内敏信他『日本の滝1000』三冊本 学習研究社 にも採録されています。登山関係では、千足沢は沢登り対象になっていないので、詳しいガイドはないようです。
 道の情報やより詳しい様子を知りたいので、インターネットで天狗滝の紹介をさがすと、これまた、たくさんありました。道の様子や、画像がたくさんあって、情報量が多かったのが、あぶさんというかたのHPの滝の写真集のページで東京都桧原村の項にあります。
 新情報としては、天狗滝の他に、その下流に、5-10mの滝があるということがわかりました。
●2。市町村史など、図書館利用
 役場か資料館で、市町村史を閲覧させてもらいますと、たいていより詳しい地名伝承や歴史、地質関係の情報が書いてあります。
 桧原村史がありました。よく調べてある村史で滝も詳しい情報がのっています。
  →見どころ参照
 従来の文献では、天狗の滝の高さは、小沢さんの本のように、38mという数字が一般的です。
ところが、「桧原村史」には「天狗滝約20m」とあり、「その下流には立派で目立つのに無名の5〜10mの滝がある」と書かれています。2説あることになりましたね。
 まず、38mといえば、同じ桧原村の三頭山の大滝よりも高い滝ということになりますが、写真で見るかぎりそんなに高そうにも思えません。
 また、すごい立派で、下の街道からも見えるという下流の滝が、無名なのもどうも腑に落ちません。
 というわけで、2説あるけど、どっちかがあるいは両方とも間違っているのではという気がします。
3。地形図・地質図をそろえて、読図をしよう
滝の断面を測量
角度を測定

石井良三氏撮影
<市町村の地形図>
 役場で、大縮尺の1万分〜2500分の一地形図が買えます。2.5万地形図などより情報が新しい道や地名の情報がえられますし、データ記入にも歩くにも2.5万地形図より便利です。
<地質図> 
 地形図はそれでいいとして、岩石のほうも知らないといけませんね。岩石の状態を知るためには、地質図、土木地質図、表層地質図などがあるが、地質調査所が刊行している地質図が代表的です。
20万と5万がありますが、日本全国は刊行されていないし、絶版になっているものもありますが、カラーコピーでよければ入手できます。
 地質調査総合センターのHPを見てください。
  それ以外の、論文や自治体の出した地質図などがあるので、図書館の司書に相談してみたり、市町村史を探せば、大抵何とかなります。
 今回の観察会では、東京都土木研究所発行(2003) 『東京都奥多摩地域地質図』 を使用しました。

<空中写真>
 全国を、4万、2万 とカラーの1万が覆っています。2004/05/01から、紙焼きだけでなく、画像データとしても販売されるようになった。空中写真を使えると、いろんな事が分かって、調査には不可欠。
 購入したければ、日本地図センターHP  図書館で揃えていることもあるので、空中写真についても司書に尋ねてみてください。
<読図>
払沢滝にて
滝面から続く
断層面

石井良三氏撮影
 地形図に、今までの情報から得られた、滝の位置、地質境界、断層などを記入してみます。・・.滝の位置は成因や変遷を知るうえで重要な情報なので、正確を期したいのですが・・
これ自体がどうも不正確で、現場で見なければ決定できないこともおおいですね。
 天狗滝のある、千足沢の図は → これ 

<縦断図>
 それから、滝は、川の歴史の最後の産物なので、川の歴史を知る必要があります。で、そのためには、最低、河床縦断面を書く必要があります。
 等高線式の地形図で、等高線間隔を測定して作ればいいが、パソコンを利用してグラフとして作成すると一発で作ってくれるので、昔と違ってずいぶん楽になりました。
 天狗滝のある千足沢の縦断面を作ってみると →これです。
 千足沢には、3つの遷急点があって、綾滝が第1遷急点、天狗滝は、80mの比高の第2遷急点(遷急区間)最上流にあることが判明。
 3つの遷急点とも、チャート層に川が差しかかる所から上流側に形成されていました。 
4。学術論文
 滝の論文なんて普通ありませんけど。河川ごとの地史についての論文はたいていあるものです。秋川には無いですけどね。多摩川のを援用する。市町村史の参考文献集や、地理文献目録、地質文献目録なんかで探すことになります。いずれにせよ、図書館で探して、コピーする。
 天狗滝の文献としては、山向こうの多摩川の滝の調査報告がありました。 水系は違うけど、地質は同じ海沢層にある滝が対象になっています。この論文、以前、海沢の滝を見に行った時にもお世話になっています。

 酒井 啓(1998)滝の密集帯の分布とその成因. 東京都の自然 24号 p1-21.東京都高尾自然科学博物館発行
5。あとは自分の目で、瀑布帯の上から下まで
綾滝にて
以前の滝壷を推定

石井良三氏撮影
 いかに調べても、最後は現地勝負です。
1.前もって集めた情報は正しいでしょうか。現地で確認します。 
 たとえば、滝の位置が地図と違うなんてのはあることですので、そのへんから、確認してください。・・・・・例えば、千葉県で最近記入された、君津市の黒滝・開墾場滝などは全然位置が違っているので、こんな明白な間違いをするなんて、国土地理院もプロのはずなのに、焼きが回ったなあという話になってます。
 こんな簡単な誤りでなく、予想が正しくない場合は、底に新事実が潜んでいるわけで、ウハウハであります。

2。現地の実情はどうでしょうか。
 現地でしかわからないこと、今まで記録されてないことが、どっさりでてくるはず。これがおもしろいですね。
 観察会前に、下見に行きました。やはり、従来の文献やインターネットの情報では、第2、3遷急点について、不十分な記述でした。現地に見に行かないとわからないことが多いですね。
 もっとも、事前の調査で地質や地形の読図をした結果は、今回は珍しく、「現地でもそのとおり」と確認できました。
 そのことと、現地でわかったことをまとめて、次の 見どころ・千足沢 以下に、まとめましたので、ご覧ください。


 あと。下見の際に、房総滝人間、名無しの滝兵衛氏に、案内してもらいました。ありがとうございます。
  つぎ、今回の見どころ 千足沢  滝の地学観察会記録もくじへ  HPトップへ